書評『シャイン博士が語るキャリア・カウンセリングの進め方』

キャリア・個人, 著作と関連書籍

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キャリア教育にも携わる実務家による『シャイン博士が語るキャリア・カウンセリングの進め方』書評です。
知人のキャリア・カウンセラーの方にもヒアリングされ、ジョブ・ロール・アナリシスの有用性に感心されたとのことでした。また民間企業の人事部門の担当者にとっても非常に有益だろうと評していただいています。

【書評】シャイン博士が語るキャリア・カウンセリングの進め方:
<キャリア・アンカー>の正しい使用法(白桃書房 2017年)

法政大学大学院キャリアデザイン学研究科研究生(キャリアデザイン学修士)
ライフデザイン・コーチ 今西 正和

1.本書のねらい
9784561246909日本では、エドガー H.シャインの個人、グループ、組織についての理論がバラバラにそれぞれの各分野の専門家だけに知られている。しかし、シャイン理論の真骨頂は、個人、グループ、組織は互いに影響し合って存在するものであり、それらをすべて包括してマクロ的な視点でとらえることであると日本人著者の尾川、石川は考えている。
本書は、2015年6月28日から7月2日にかけてアメリカのカリフォルニアで行われた、日本人キャリア・カウンセラーのためのエドガー H.シャインによるワークショップを基に、個人、グループ、組織の3つの視点をカバーする内容を日本のキャリア・カウンセラー、キャリアや組織について学ぶ一般の人にわかりやすく解説したものである。

2.本書の特長と構成
まず、「はじめに」で、本書の内容について簡単に整理されているので、それを参照しながら、本書の構成について紹介する。本書の特長は、日本人がキャリア・アンカーを活用する際の注意点がよく分かるようにまとめてあること、そして、シャイン自身による解説書であるということである。
本書は3つの章と座談会で構成されている。

第1章は、キャリア・アンカーの理論について解説している。キャリア・アンカーとは、個人のキャリアに関するセルフ・イメージを船の錨(アンカー)になぞらえたものであるとシャインは述べている。そして、シャインは、セルフ・イメージが、(1)スキルや能力領域、(2)動機や目標、(3)価値観という3つの要素で構成されていることだと述べている。キャリア・アンカーという概念は、シャインがスローン経営大学院修士生45名に対して、卒業間際、卒業1年後、5年後、13年後にインタビュー、テストやアンケートを行い、それぞれの仕事に対するセルフ・イメージを調査し、発見したものである。つまり、キャリア・アンカーは、実際の調査から発見された概念であることが大きな特徴の1つである。次に、キャリア・アンカーの8つのタイプ、「専門・職能別コンピタンス」「全般管理コンピタンス」「起業家的創造性」「保障・安定」「自律・独立」「奉仕・社会貢献」「純粋な挑戦」「ライフスタイル」について、具体的な事例を用いながら、わかりやすく解説している。最後に、シャインは、この研究調査の大きな目標を「キャリア・アンカーを自己開発のためのツールとすること」と述べている。さらに、シャインは「私の目標は、自分自身についてより深く知り、それによってよりよい人生の選択をしてもらうこと」とも述べている。

第2章は、個人と組織の間にはどのようなダイナミクス(力学)が働いているか、何がどのダイナミクスに影響を与えているのか、そして、そのダイナミクスが個人のキャリアにどう作用しているのかということについて解説している。特に、組織が実際の業務を遂行するために求める人材像を、より分かりやすく個人へ伝えるために必要になるものについて、具体的な事例を通して、ジョブ・ロール・アナリシス、ロール・マップ(役割マップ)の作成、分析などの考え方を提示している。

第3章では、個人と組織のマッチングを図るための考え方と方法を提示している。大前提として、よい社会、よいキャリア・システムとは、個人と組織が求めるものの両方をしっかり満たす必要があるとし、この2つの間に適切なマッチングを見出す支援を行うことがキャリア・カウンセリングの最終的なゴールだと述べている。

最後に、座談会「ポスト・キャリア・アンカー これからのキャリア・カウンセラーの役割」というテーマで、キャリア・アンカーに続くキャリア研究と、これからのキャリア・カウンセラーに求められる役割について、エドガー H.シャイン、ジョン・ヴァン=マーネン、ヒレル・ザイトリン、尾川丈一が2015年7月2日にディスカッションした内容を紹介している。

3.本書に対するコメント
以下では、評者の関心に引き付けて3点コメントしてみたい。

(1)キャリア・アンカーの活用について
「キャリア・アンカーが他の概念と異なっているのは、その成り立ちから分かるように、キャリアの中盤以降に適応される概念であり、学生にはキャリア・アンカーはありません。彼らはすべてがベストであることを望んでいます。歳を重ね、経験を積むことによって初めて、自分が本当はどういう人間であるのかがわかるようになるのです」とシャインは述べている。キャリア・カウンセラーとして、現場でカウンセリングの実務を行っている方たちには、キャリア・アンカーの概要と8つのタイプ分けはよく知られていようである。しかし、30歳以下の若い人に適用することが難しいことを認識していない方もおられるのではないか? 彼らには、はっきりとアンカーが出来上がっていないこともあるからだ。本書で、キャリア・アンカーという概念の成り立ちがわかると、正しい使用法が理解できると評者は考える。

(2)キャリア・アンカーの診断方法について
シャインは、「キャリア・アンカーの診断には対面でのインタビューが不可欠である」と述べ、その理由として次の2点を挙げている。1点目は、「回答者が自分自身に正直でないことがあるということ、アンケートに対して、つい一般的な理想像を答えることもある」こと、2点目は、「アンケートの質問は、現実の状況のように何らかの選択を迫ってくるものではないので、すべての回答にイエスと答えるという矛盾したこともできる」ことである。そして、「インタビューの場合は、その人のこれまでのキャリアをすべてチェックすることになる。現実の世界でその人がその人がとってきた行動は、その人が口にすることよりも如実にその人のアンカーを表す」と述べている。
アンケートでなく、インタビューを通じて、相談者のキャリア・アンカーを明らかにすることは、まさに、キャリア・カウンセラーの役割の一つ、「キャリアの発達を支援すること」を果たすことであると評者は考える。

(3)ジョブ・ロール・アナリシスについて
組織と個人のマッチングにおける問題の最初のポイントは、個人が自分のキャリア・アンカーを明確にできている場合でも、自分にオファーされている仕事がどういうものかわからないことがあると本書は述べている。この問題に対して、具体的な事例を紹介しながら、ジョブ・ロール・アナリシスという考え方を提示している。この考え方では、原則として、仕事そのものというよりも、その仕事をする上で求められる人間関係を中心に考える。組織内のすべての仕事について、その役割を決定づけている人間や、ステークホルダー(利害関係者)が誰かということを明らかにするために、ロール・マップ(役割マップ)を作成し、分析するということを行う。
評者が友人のキャリア・カウンセラー数人にヒアリングしたところ、「ロール・マップについては知らなかった。今までは、ジョブディスクリプションがまずありきでマッチングを考えていたので、すごいと思う」という声が聞かれた。

4.最後に
本書は、組織の要請と個人の要求をうまくマッチングするためのモデルの一つを提示したものである。評者の私見ではあるが、本書は、キャリア・カウンセラーだけでなく、民間企業の人事部門の担当者にとっても非常に有益な内容であろう。

<参考文献>
・特定非営利活動法人キャリアコンサルティング協議会(2016)『キャリアコンサルタント倫理綱領』
・岡田昌毅(2014)「キャリア発達とキャリア・カウンセリング」『つくばの心理学』筑波大学人間学群心理学類

imanishi

今西正和(いまにし・まさかず)

1986年 同志社大学工学部卒業
1986年 松下電送株式会社に入社
1992年 株式会社ベネッセコーポレーション入社
2013年 今西正和事務所設立
2015年 法政大学大学院キャリアデザイン学研究科入学
2017年 法政大学大学院キャリアデザイン学研究科修了(キャリアデザイン学修士)
2018年 国立大学法人電気通信大学特任講師(キャリア教育基礎担当)

<論文>
1.松下慶太・今西正和 2017「PBL形式の演習科目におけるルーブリック評価の開発―学生の「振り返り」に着目した授業評価―」『実践女子大学人間社会学部紀要』13,p179-185.

<学会発表>
1.今西正和 2017「大学の産学共同型PBL科目におけるルーブリック評価の開発-「振り返り」に着目して-」『大学教育学会第39回大会発表要旨集録』p198-199.(2017.6.11 広島大学総合科学部)
2.今西正和・松下慶太 2017「PBL科目のグループワークにおける学生の役割意識の変化-振り返りに着目して-」『日本キャリアデザイン学会第14回研究大会・総会(2017年度大会)資料集』p89-92.(2017.9.2 成城大学)
3.今西正和・松下慶太 2017「SBI法を活用したPBL科目におけるルーブリックの作成」『日本教育工学会 第32回全国大会講演論文集』p443-444.(2017.9.23 島根大学)

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